北本中学校・いじめ自殺裁判 東京高裁で証人尋問へ
小学校時代からくり返されたいじめを苦に、2005年10月11日に自殺した中井佑美さん(当時中学1年生)の両親が起こした〈さいたま北本中いじめ自殺裁判〉。その控訴審、2回目の裁判で、証人尋問が行われることとなり、同裁判は大きなヤマ場を迎えることになった。
前回10月23日の裁判報告会で「ふつう高裁の審理というのはあっという間に終わってしまう」と、証人尋問が行われるかどうか不安であったことを藤原家康弁護士は述べたが、そもそも高裁で証人尋問が行われることが珍しい。したがって、藤原弁護士の不安はもっともで、10月23日に3人の裁判官がいったん奥へ姿を消し協議している間、傍聴席は誰もが無言で緊張した面持ちであった。
控訴した原告側が申請していた証人はぜんぶで4人。小6~中1と同じクラスで最も仲のよかったクラスメートで今は大学生のAさん、それに教育心理学や民法の研究者ら3名だったが、設楽隆一裁判長は、Aさんの証人尋問を決めた。
〔期日〕2012年11月29日(木)16~17時
〔法廷〕東京高裁 101号法廷 (傍聴席 約100席)
〔事件名〕平24(ネ)第5014号
〔担当〕設楽隆一裁判長、門田友昌裁判官(右)、島村典男裁判官(左)
10月23日の裁判報告会会場では安堵の空気が流れていた。杉浦ひとみ弁護士によれば、Aさんは学校でトイレに行くにも一緒で、毎日の佑美さんの言葉を聞いていたという。今も佑美さんのことを思い出し、「当時のことはまったく風化していない」(杉浦弁護士)。
しかも、北本市側が「すでに提出されている書面で足りる」と強く証人尋問に反対したのに対し、原告弁護団は「Aさんは、大学で心理学や教育学に関する専門知識も学び、自分が経験してきたことを、客観的、公正に語れるようになった」として証人尋問を求め、裁判所もそれを認めた形だ。
原審(東京地裁:舘内比佐志裁判長、他に杉本宏之、後藤隆大、両裁判官 下記〈最高裁・裏金裁判〉記事参照)からの争点は次の4点である。
(1)北本市に中井佑美さんに対するいじめ防止義務違反はあったのか。
(2)中井佑美さんの自殺の原因について、北本市はきちんと調査・報告義務を果たしたのか。
(3)国にいじめ防止義務違反はあったのか。
(4)国にいじめ自殺に関する調査義務はあったのか。
上記の争点について、東京地裁の舘内比佐志裁判長は、「同級生らが中井佑美さんのことを『きもい』『中井君』などと言って佑美さんが不愉快に感じたことはうかがわれるが、それらは必ずしも一方的、継続的だとは言えず、自殺の原因とまでは言えない」という旨の論法で、自殺につながるいじめを認められないとした。
前回報告会(10月23日)で杉浦弁護士から、本裁判の〈いじめ〉について重要な指摘があった。
「もちろん暴行恐喝リンチ型の〈いじめ〉もありますし、悪質です。しかし、その一方で、本件のような、一見それが〈いじめ〉かどうかわかりにくいものがどんどん集積して、被害者が追い詰められていく〈いじめ〉も歴然としてあるのです。何も無かったのなら、佑美さんは亡くなりません。暴行恐喝リンチ型の〈いじめ〉ではない、ささいな行為が集積して人が追い詰められていくタイプの〈いじめ〉にも焦点を当てていかないと、子どもたちは救われません。」
児玉勇二弁護士も会場で、第1審判決を強く批判する。
「裁判所に提出した別表の一部を手元の資料にも紹介しましたが、それを見て『これはいじめではない』と言える人がいますか?本件のように、〈いじめ〉が集積された全体としてではなく、一つひとつに分断されて個別に判断されたら、〈いじめ〉の実態を正しくつかむことはできません。」
佑美さんの父親の中井紳二さんも報告会でマイクを握った。
「佑美が自殺したという事実があります。そして、その自殺には原因があります。」
「学校で〈いじめ〉が起きていたら、それを防止するのは、教師や学校の務めではありませんか。いまや、一部の学校は、ある種の治外法権になっています。しかし、教師は『知らなかった』では済まされないのです。結果として、子どもが亡くなっているのですから、何があったのかを確かめないといけません。」
「暴行や恐喝は、法律で罪状として認められています。だから、わかりやすいのです。悪口、かげぐち、無視…といった行為は、法律では禁止されていません。けれども、法律に無いから〈いじめ〉としてそれらが認められないというのは、おかしなことです。」
「暴行や恐喝によるいじめも、水滴のような些細(ささい)な行為の積み重ねでやがてコップがいっぱいになって被害者が自殺に至るような〈いじめ〉も、最後は本人が耐えられなくなって死に至るという点は同じなのです」
◇
この裁判は、佑美さんのご両親が起こした裁判であるが、同時に、多くの意味がある。報告会の会場での児玉弁護士の次の言葉は、その一つを物語っている。
「この裁判に勝つことで、いまも同じような〈いじめ〉に苦しむ多くの子どもたちに救済のメッセージを出すことができるのです、みなさん、どうか支援をお願いします。」
(了)
《関連サイト》
◎ 「さいたま北本中いじめ自殺裁判支援の会」
本裁判の控訴審が始まってから、有志により原告を支える「支援の会」が立ち上げられた。同会の以下のサイトでは、裁判傍聴やカンパを呼びかけている。
《参考記事》
◎ 「財布の中まで身体検査 始まった《最高裁・裏金裁判》」
〈さいたま北本中いじめ自殺裁判〉の東京地裁判決(2012.7.9)は直前に裁判長が交代となったが、判決にかかわった舘内比佐志裁判長と後藤隆大裁判官は、現在、起こされている《最高裁・裏金裁判》の担当であり、関係者の間では、その強権的な裁判指揮は悪名高い。