大分県:剣道部顧問による暴行致死事件(1)9月に東京で講演会開催!
今から4年前の8月22日も、真夏の日差しが照りつける暑い日だった。朝8時過ぎ、大分県竹田高校剣道部の主将を務める工藤剣太さん(当時17歳)は、かばんに母親の作ってくれた昼食用のおにぎりを入れて家を出た。
その時、剣太さん自身、まさか、そのおにぎりを自分が食べられなくなるかもしれないこと、それだけではなく、その日、自分がもう二度と生きてわが家に帰れなくなること等、予想すらしなかっただろう。――しかし、恐ろしいことに、剣太さんは、その日、母親が作ってくれたおにぎりを食べることはなかった。それだけではなく、部活動中に顧問教諭からの暴行を受け、熱中症による多臓器不全で搬送先の病院で亡くなってしまうのである。
この剣道部顧問による暴行等について、2010年3月に剣太さんの両親は大分地裁に提訴、今年3月、同裁判所から判決が下された。判決は、ただ1点――公務員の個人の賠償責任を認めない国家賠償法の規定により、暴行を加えた顧問と傍らで暴行を見ていて止めに入らなかった副顧問についての賠償責任を認めなかったという点を除いて、ほぼ原告の主張に添うものであった。そして、その1点に対する割り切れない思い―つまり、「公務員というだけで、どうしてこの顧問と副顧問の2人は法によって守られ、個人の責任を負わないのか」との思い―から、剣太さんの両親は控訴を決意する。
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剣太さんの両親を支援する『剣太の会』は、これまで大分県を中心に活動を重ねて来たが、福岡高裁での審理開始を機に、首都圏での周知・問題提起をねらいとして、来月9月7日(土)に、都内で『剣太の会』を開催することになった。
4年前の事件、そして今回の東京での『剣太の会』開催について、共催の『〈指導死〉親の会』代表の大貫隆志氏は次のように語る。
「剣太くんのご両親は、国賠法を変えるために高裁を戦っていますが、最高裁まで争うことを視野に入れています。いま署名活動を続けていますが、集まった署名は約32000筆。国賠法を変える後押しとしては、60~70万筆が必要とおふたりは考えています。そのためにも『剣太の会』を九州以外で開いて、より多くの人に訴えかけようと考えました。当初は、大阪での『剣太の会』開催を計画したのですが、『それならいっそのこと東京で』というアドバイスを受け、私に相談を持ちかけてくださいました」
これまでの学校事故でも、国家賠償法により、教員個人の賠償責任が認められず、県や市町村などの自治体が言わば税金から賠償金を支払い、事件・事故を起こした当の教員らが事実上“免責”されてしまうような状況が多々見られている。剣太さんの両親の闘いは、この「国家賠償法」による個人の“免責”を今後させないようにする取り組みでもあるが、これまでの判例からすると、司法を動かすには、多くの人たちの支持や世論の高まりが必要である。この点について、大貫氏は次のように言う――。
「国賠法の趣旨はともかく、遺族感情としては、加害者である顧問が何ら賠償責任を負うことなく守られるのは、とうてい納得できるものではないと思います。特にこの事件は、〈過失〉ではなく〈故意〉あるいは少なくとも〈未必の故意〉(注)を問われるべき背景をもっていますから、客観的立場から見る私にとっても、顧問が守られているのは違和感を感じます。」
(注)「殺してやる」という明確な意思が〈故意〉なのに対し、「相手が死んでしまってもいい」といったものが〈未必の故意〉である。
一部報道では、「熱中症による死亡事故」といった表現も見られるが、関係者の話を総合すると、剣太さんの死亡にも柔道事故などと同様に【絶対的な上下関係の中での、教員の暴力】が関わっていることが見えてくる。
「剣太くんのいのちを奪った顧問は、前任校でも暴行事件を起こしています。しかし、教育委員会は対応を怠り、竹田高校に異動させたにとどめました。もしそのとき、正しい対応をしていれば剣太くんは命を失わずにすんだはずです。だとすれば、この事件は教育委員会によって引き起こされたともいえます。」
大貫氏が指摘する「前任校での暴行事件」――これについては、今年6月に民放で特集された剣太さんの特集番組(→下記《関連サイト》参照)でも詳しくふれられている。それを見ても、
○ 暴力や恐怖で子どもたちを支配する指導者
○ スポーツ指導中の安全意識に欠如した指導者
○ 一般社会から隔絶され、良識や常識の欠落した指導者
○ 大会でよい成績を収めることに躍起になる指導者
…といった、大阪市立桜宮高校での生徒自殺事件や柔道での幾多の死亡事故と、きわめて似通った“指導者”像が明らかになって来る。
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今回の『剣太の会』東京開催について、大貫氏は次のように語る。
「文部科学省が今年(2013年)8月9日に発表した2012年度の体罰実態調査では、体罰を行った教員数が去年までの年間400人前後から5400人と13倍強に増加しました。もちろん、調査方法を変えるなど実態把握に努力した結果と言えますが、これでさえまだ氷山の一角だと思います。〈体罰〉というより〈暴行〉と表現すべきとは思いますが、いわゆる“体罰”や、個人の尊厳を否定するような言動を背景とした不適切な指導が、教育の場に蔓延(まんえん)しています。その解決は、教育関係者だけでなく学生、保護者、研究者、行政に携わる方々、政治家など、あらゆる人々が強い関心を持ち、学びの場の環境整備に取り組む必要があると思います。特に、これから教育関係の仕事に就こうと考えている方には、ぜひ参加していただき、現状を正しく認識していただきたいと思います。」
東京での開催に向けて、母親の奈美さんも言う――「息子・剣太が学校教育の一環である部活動中、指導者である顧問と副顧問からどのような酷(ひど)い扱いを受け、17歳で死ななければならなかったのか。公務員というだけで、どうしてこの2人は法により守られ個人の責任を負わないのか? 私たちは、息子の死を無駄にはしません! 決して屈することなく闘い続けます。とにかく、この事件を知ってください。そして、ぜひお力を貸してください」
「日本だけ突出している柔道事故による死亡者数、熱中症による部活動中の死亡事故など、子どもを取り巻く危険は少なくありません。しかしこうしたさまざまな危険要因は、ごくまっとうな配慮を働かせるだけで防ぐことができるものではないでしょうか。特別な装置や予算や知識が必要なわけではありません。子どもの命を守る、子どもの尊厳を大切にする。たったそれだけのことができない、この国の大人たちに、私は大きな不信感を感じています。ですから、子どものいのちや尊厳を大切にできる人たちと手を組んで、少しでもその影響力を広げようと活動しています。」(大貫氏)
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2009年に起きた、〈大分県:剣道部顧問による暴行致死事件〉――これは、一地方の高校で起きた、単なる“熱中症による事故”ではない。部活動の、教員人事の、事故に対する教育委員会の…つまり、学校現場でのいくつもの深い〈闇〉と、剣太さんの死とは繋がっているのである。
◎ 教師の暴力から、子どもたちをどう守っていくか?
◎ 生徒からの「SOS」を直ちに受けられるしくみをどう作るのか?
◎ 保護者からの危険を知らせる声をいかにもみ消されないようにするか?
◎ 勝利至上主義の名のもとに、子どもたちが痛めつけられないように、部活動の現場をどう変えていけばよいのか?
◎ 教育委員会の適正化のためには、何が必要か?
◎ 遺族の思いに応える司法の実現には、何が必要か?
――わずか17歳で顧問に“殺された”剣太さんが、私たちに残した問いは極めて重い。
(続く)
《 備 考 》
◎ 「剣太の会 in 東京」
〔日時〕2013年9月7日(土) 13:30~15:30(開場13:00)
〔会場〕人権ライブラリー(港区芝大門2-10-12 KDX芝大門ビル4F)
JR「浜松町駅」、地下鉄「芝公園駅」「大門駅」から徒歩4~7分程度
〔費用〕資料代500円、定員60名(先着順)
〔主催〕「剣太の会」、「〈指導死〉親の会」
講演内容等、詳細はこちら
⇒ http://www.2nd-gate.com/130907_KentaNoKai.pdf
《関連サイト》
◎ 〈大分県:剣道部顧問による暴行致死事件〉民放番組〔約20分〕