大津いじめ自殺事件 ―遺族が会見で訴え―
滋賀県大津市で昨年10月に学校での「いじめ」を苦に自殺をした当時中学2年生の男子生徒――。その父親が、30日、都内で記者会見を開いた。
記者会見は、NPO法人ジェントルハートプロジェクト(以下、GHP)の主催、川田龍平参議院議員の協力で参議院議員会館で行われた。以下は、その会見要旨である(注:小見出しは三上による)。
◇◆◇ 父親による会見 ◇◆◇
―14階から飛び降りた息子の代弁者として…―
まず、今から記者会見でお話しさせていただくことは、すべて口を無くした息子の代弁者として、その父親が話すものです。そして、ここにいらっしゃる議員の先生方や、マスコミのみなさんも、おとなの感覚ではなく、どうか(息子と同じ)中学2年生に気持ちに戻していただき、中学生の立場に立ってお聞き願います。
私の息子は、平成23年10月11日、自宅マンション14階から飛び降り自殺をしました。ただ、姿形は…何と言いますか、“きれい”で、はじめは4階付近から飛び降りたのではないかと思われるほどでした。
当時息子の通っていた中学校では、「いじめの事実は確認できていない」としていました。しかし、息子の自殺翌日の夜、同じ中学校に通う生徒の母親から、学校で「いじめがあった」との連絡があり、息子は同級生によるいじめを苦にして自殺したものと考えました。
―アンケート結果を読んで感じたこと―
そこで、私はその電話の翌日(10月13日)、息子の通っていた中学校及び大津市教育委員会に対して「いじめの情報を得た」との報告をし、在校生徒を対象としたアンケートの実施を求めました。その際、事実関係を調査する〈第三者委員会〉に関する話は、校長からは一切ありませんでした。校長は「遺族に説明した」と話しているようですが、私にはありませんでした。
「とにかく途中経過でもよいから、アンケートを実施したらすぐにその結果を手渡して欲しい」と伝えました。また「アンケートは繰り返し行なってほしい、最初は無記名でも、事実関係について当事者の名前を生徒たちが書いてくれるようになるはずだから…」と訴えました。はじめ学校は「アンケートには2週間かかる」と言ってきましたが、「それではダメだ」とこちらの意向を伝えました。その結果、途中経過とされる、被害者・加害者の実名が載ったアンケート結果を平成23年10月19日に手渡されました。そこに書かれていた内容と記載の分量を見た時に、何かとんでもない映画を見たような……、吐き気すら覚えたことを今でも強く覚えています。
―黒塗りのアンケート結果、そして確約書の提出―
最終的なアンケート結果はいつ見せてもらえるのかを尋ねたところ、10月24日頃になるとのことでした。それで、再度その日に中学校に出向き、最終的に取りまとめられたアンケートを手渡されましたが、それは生徒の実名部分がマジックで消され、「誰が」「誰に(どうした、何をした)」といったことがわからなくなっていました。
さらに、学校から要望されたのは、10月19日に渡された実名入りのアンケートを返却し、マジックで黒塗りの最終的なアンケート結果と差し替えてほしいということでした。また、学校長宛てに「今般、提示されました資料・情報等につきましては、守秘すべき個人情報等が含まれていることを認識し、取り扱いには十分な注意をすると共に、部外秘とすることを確約いたします」という旨の確約書に署名押印を求められました。私はその書面に記名押印しなければこれらのアンケートを手にすることが出来ないのだと思い、その書類に記名押印しましたが、19日に渡された実名入りのアンケートは学校に返還しませんでした。
私はこのアンケートを息子の同級生らからの聴き取りのために使用したかったのですが、確約書では「部外秘」ということになっていたので、聴き取り等は満足に進みませんでした。そこで私は、自由に第三者に見せることのできるアンケート結果を入手するべく、平成23年11月22日、大津市教育委員会に対して個人情報開示請求を行い、アンケートの開示を求めました。ところが、これに対して12月7日に大津市教育委員会から開示されたアンケート結果は、アンケートの枠取り以外の全てが黒塗りでした。
中学校の子どもたちが、自殺した息子に起こっていた事実を伝えようと、必死で書いたアンケート結果を手にしながら、学校からは「確約書」を盾(たて)にされ、私はじゅうぶんな真相究明が出来ない状態でした。アンケートで何人もの生徒が書いてくれた、息子が受けた加害者からの執劫ないじめに対して、(確約書を提出しているがゆえに)その事実関係を解明してやることが出来ず、その時は、親としての無力さを亡き息子に詫びるしかありませんでした。
―二重の意味の裏切り―
そこで、何回か警察も訪ねましたが、「被害者が亡くなっている上での調査は難しい」との理由から、被害届も受理してもらえず、行き場の無くなった私は「提訴」するしか方法がありませんでした。これが、昨年末の状況です。
アンケートには、驚くようないじめの実態が赤裸々(せきらら)に語られていました。息子が死を選んだ理由を知りたい、その真相解明を中途半端なまま終わらせたくないと、毎日毎日、繰り返し繰り返し、何度もアンケートを読み返しました。私はこのアンケートを持って、息子の同級生や学校関係者の自宅を回って、内容を確認したいと考えました。とにかく、私は息子が自ら死を選んだ真相を知るため、あらゆる手段を尽くして、いじめに関する調査を自分自身の力で進めようとしていました。
最近になって、滋賀県警が強制捜査で押収した、学校や教育委員会の資料を見ることが出来ました。それらを見ると、学校や大津市教育委員会がいじめやその対応に関する情報をひた隠しにし、私たち遺族に真相を知らせなかったことが、息子の自殺の背景にあったことがわかりました。
もっと早く、もっと自由に、そしてもっと広く、アンケート結果を使うことができていたら、私は早くから真相の究明に乗り出すことが出来たはずです。アンケート内容が公になるまで、私は悶々とした気持ちから完全に解き放たれたことは一度もありませんでした。いつも心のどこかで、なぜ息子を救えなかったのかという気持ちが残っていました。
私にとってアンケート結果は大きなショックでした。しかし、このアンケート結果を学校や大津市教育委員会に隠ぺいされて来たことは、さらに大きなショックでした。私は学校や教育委員会を信頼して、わが子の教育と安全と将来を委(ゆだ)ねていました。しかし、いじめの事実に背を向け、見て見ぬふりをしただけでなく、真実を隠ぺいしようとした学校と教育委員会には,二重の意味で裏切られたという気持ちを抱かずにはいられません。
―アンケート結果を遺族にすら見せない出水市の対応―
真相を解明し「いじめ」を根絶する上で、アンケート結果の公表は必要不可欠な第一歩です。私はその第一歩すら踏み出すことができず、苦闘の日々を送りました。こんな苦しみを味わうのは私を最後にして欲しい。そう思っていました。
けれども、昨年9月に起きた鹿児島県出水市の中学1年女子生徒のいじめ自殺事件でも、同じようなことが起きていることを知りました。これは、息子の事例よりひどい対応です。アンケート結果を遺族に対して開示すらしていないのです。先日その事実を知らされ、出水市教育委員会に連絡したところ、(市教委だけではなく)出水市議会においても「アンケート結果については開示しない」との決議がなされたそうです。
この件について、第三者調査委員会の委員に「このようにアンケートを開示されないケースは通例なのか」を尋ねたところ、「これが今の日本の常識になっている」という返事でした。
――これが常識であっていいはずがありません。「アンケートは隠ぺいすべきもの」という学校・教育委員会の“常識”に、私たちは声を大にして訴えなければなりません。そんなことが“常識”であってよいはずがないのです。どうしてわが子が自殺に至ったのかについてすら知らせてもらえない。遺族の方々の苦しみを考えると、耐えきれない気持ちがこみ上げてきました。
どうか議員の先生方、マスコミの皆様方、そして文部科学省の方々、子どもの目線に立って、自分自身を、いじめを受けている子どもや、子どもを亡くした親の立場に置き換えて、この問題を考えてください。
そしてどうか伝えてください。真相が解明されないからこそ真の再発防止策がとれなかったという事実を…。そして、真相解明を怠ったがために多くの若い命が失われて来たということを!
今日の会見が、いじめと自殺を根絶することのきっかけになることを願って、私の会見を終わらせて頂きます。
◇
会見後の質疑応答で、2011年9月に自殺した女子中学生の件で出水市の教育委員会がアンケートを開示しないことにふれて、父親はこう答えた。
「同じ学校に通う生徒らが一生懸命書いてくれたアンケート内容について、これを知らされないというのはたいへんなことです。ものすごい苦しみなのです。今回、このように会見を初めてひらいた理由ですか…?このまま子どもたちが死に続けることを見るのが耐えられないからです。」
GHPの武田さち子理事が、文科省発表資料から拾い上げた2011年小中高の自殺者数は前年から44名増えて200人、同じ年の警察庁発表は353人である。今日もまた、日本のどこかで苦しんでいる子どもたちのことを、私たちは常に考えるようにしよう。
(了)
《関連行事》
11月に下記の日程で〈親の知る権利〉〈指導死〉に関するシンポジウムが開かれる。
―指導死シンポジウム―
〔日時〕2012年11月17日(土)13~16時(12:30開場)
〔場所〕人権教育啓発推進センター
(JR田町駅、都営三田線芝公園駅、都営大江戸線・浅草線大門駅より徒歩)
〔備 考〕定員60名、入場無料
〔申込先〕4104@2nd-gate.com またはFAX 050-3708-0111
〔主 催〕「指導死」親の会(03-6304-2970 SecodGate)
―第7回・親の知る権利を求めるシンポジウム―
〔日時〕2012年11月24日(土)13~16時(12:30開場)
〔場所〕人権教育啓発推進センター(港区芝大門2-10-12KDX芝大門ビル4階)
(JR田町駅、都営三田線芝公園駅、都営大江戸線・浅草線大門駅より徒歩)
〔主催〕NPO法人ジェントルハートプロジェクト
〔備考〕定員80名、入場無料
《関連サイト》
◎川田龍平議員 ホームページ
◎ジェントルハートプロジェクト
◎「日本の子どもたち」(武田氏によるサイト)
http://www.jca.apc.org/praca/takeda/
◎「大津市いじめ自殺裁判」支援の会
http://www.yoshihara-lo.jp/otsu-ijime/
◎「13歳の絶望 陵平はなぜ死を選んだのか」