19年目に認められた“体罰” ~ポーズでないなら制度の充実を~
さきに「指導死シンポジウム」でも報告をした内海千春さんの息子・平くん(当時小6、11歳)が担任教諭からの暴力行為直後に自殺した事例(1994)で、たつの市教育委員会が「事故による死亡/原因不明」とする報告を自殺から19年経った今月(2013年3月)、「体罰による自殺」と訂正していたことが報道された。
この報道から、私たちが考えるべきことは少なくとも2つある。
ひとつは、この「19年」という年月の長さだ。父親の内海さんはNHKの取材に対して「19年間訴え続けてきた積み上げ」が今回の訂正となったと答えたが、下記【2】に書かれている事実経過等を見ても、遺族が19年間も訴え続けなければならないようなことなのか、理解に苦しむ。
ふたつめには、今回のケースは市教委が内海平君の自殺から19年経ってようやく訂正に応じたものだが、2004年3月に自殺した安達雄大君(当時中2、14歳)の場合は、遺族からの提起されたその裁判途中に死因を「自殺」としながらも、原因は「不明」のまま現在に至っている。同じく2011年の6月に自殺した山田恭平さん(当時高2・16歳)の場合にも、教育委員会の報告書にはまったく事実ではないことが書き連ねられていたという(下記【5】参照)。 そうした事例は、レアケースではなく、むしろ「氷山の一角」である。教育委員会や文部科学省が、いかに「子どもたちの自殺について真面目に調査をしていないか」を示す資料がある。
文部科学省は毎年「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」を発表しているが、それによると平成20~22年の過去3年間の児童生徒の自殺者数とそのうちの「原因不明」件数は次の通りである。
平成20年 自殺者数136人(そのうちの原因不明…73)
平成21年 自殺者数165人(そのうちの原因不明…96)
平成22年 自殺者数147人(そのうちの原因不明…96)
つまり、過去3年間の児童生徒の自殺448件のうち約6割に当たる265件の自殺が「原因不明」で“処理”されているのである(それ以外にも、警察庁発表の件数と文部科学省の数字とが合わないという指摘もされている)。子どもたちが、何らかの原因で自ら命を絶つという痛ましい出来事を前にして、その過半数を教育関係者が「原因不明」として“放置”(即ち隠ぺい)しているのが、今の日本の教育現場の実態である。
「何があったかを明らかにして、それを認める中で、それと正直に向き合う中で、本当の意味での再発防止策、それが生まれてくる」
テレビ取材の中でこう答えた父親の内海千春さんはさきの「指導死シンポジウム」でも「キーワードは〈事実解明〉です」と訴えている。たつの市でもどこの自治体でもよい、もし子どもの命を本当に大事と思い、内海さんの訴えに耳を貸す気があるのなら、〈事実解明〉のための制度作り――これを各自治体で進めたらどうだろう。どの自治体も、文部科学省の顔色をうかがうことなく、独自に「条例」なり「規則」なりを作ることはできるはずだ。
(了)
《備考》 ※読売新聞報道は以下の通り
19年前の小6自殺「体罰が原因」 …市教委訂正
兵庫県たつの市で1994年9月、放課後に首をつって自殺した小学6年の男児について「事故死」として処理し、直前の教師の暴行との因果関係を否定していた市教委が、今月になって「体罰による自殺」と認めて両親に謝罪、文部科学省に訂正を報告したことがわかった。
教育現場の隠蔽体質に批判が強まる中、訂正せざるを得ないと判断したとみられる。
市教委が新たに「自殺」として報告したのは、龍野(現・たつの)市立揖西(いっさい)西小の内海(うつみ)平(たいら)君(当時11歳)。教室で運動会のポスターの作り方を質問した際、担任の男性教諭から「何回同じことを言わすねん」などと言われ頭や頬を殴打されたことにショックを受け、その日の夕方、自宅の裏山で首をつって死亡した。
警察は自殺と判断したが、学校は「事故による死亡(管理外)」「原因不明」と報告書に記載し、責任を否定していた。両親は市に損害賠償を求めて提訴。2000年1月、神戸地裁姫路支部は、自殺と暴行との因果関係を認めた上で、市に3792万円の支払いを命じた。市は控訴を断念。それでも訂正は「必要ない」との立場を変えなかったが、今月19日、市教委の苅尾昌典教育長が両親宅を訪れて謝罪、訂正を伝えた。
(読売新聞3月21日)